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生分解性プラスチックについて |
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生分解性プラスチックとは: |
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一般に,プラスチックは軽く,腐食せず,成形が容易であるなどの長所があり,広く用いられてきましたが,逆に腐食しないことは欠点にもなっています。
例えば,ほとんどの金属類は腐食により地中に戻りますが,プラスチックは腐りません。そのため,大量廃棄に伴うゴミ問題を起こしています。
そこで,通常のプラスチック製品と同様に使うことができ,使用後は水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解される生分解性プラスチック(Biodegradable Plastics)が最近脚光を浴びています。
生分解性プラスチックは,環境低負荷型素材といえ,使用領域が拡大しつつあります。
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(a)ポリヒドロキシブチレート(PHB)
(b)ポリカプロラクトン(PCL)
(c)ポリブチレンサクシレート(PBS)
(d)ポリ乳酸(PLA)
(e)ポリビニルアルコール(PVA)
(f)でんぷん系(Starch)
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などの種類がありますが,このうちポリ乳酸(PLA)タイプが特に注目されています。
(ポリ乳酸(PLA)は,トウモロコシやサトウキビなどを醗酵させて得た乳酸を原料とする非石油系の循環型植物性プラスチックです。)
以下の写真は,実際に空気輸送テストを実施した生分解性プラスチック(PCLタイプ)のペレットです。色は乳白色で,大きさや形は通常の汎用樹脂(PE,PPなど)のペレットと変わりません。
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<写真>
D社製PCLタイプ生分解性プラスチック
<物性>
大きさ:φ3〜φ4mm
融点:60℃
かさ密度:0.6g/cm3
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生分解性プラスチックの分解反応: |
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生分解性プラスチックは,自然界の微生物により,最終的に,水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解されます。従って,地中に埋めたり,水分や温度が,ある程度高めに一定に保たれている環境では,容易に分解除去されていき,環境に対する負荷を低減するといえます。
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生分解性プラスチックの市場動向と用途例: |
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このプラスチックの市場は急速に拡大しています。例えば,2001年度の国内生産量は6,000トン,2002年度は9,000トン,2003年度は15,000トンと推定され,2005年度には50,000トン,2010年には200,000トンへ拡大すると予測しています。
世界的には,アメリカ カーギル・ダウ社では,世界最大の設備を稼働させ,2010年には年45万トン(年450万トンの需要の10%)の生産を目指しているとの記事があります(ダウ社はこの樹脂に関して,国内数社と提携しています)。
用途例としては,2001年度の場合,農林土木30%,生ゴミ袋10%,バラ緩衝材35%などとなっており,具体的には,以下のものを挙げることができます。
<当面の用途>
(a)コンポスト資材:生ゴミ袋,水切り袋,コップなど
(b)農業土木資材:農業用フィルム,移植用苗ポットなど
(c)食品包装・容器:生鮮食品用トレー,生鮮食品用パック,弁当箱など
<将来目指す用途>
(a)環境中で利用されるもの:釣り糸,漁網,緑化用保水シート,レジャー用品など
(b)使用後の回収・リサイクルの難しいもの:即席食品容器,歯ブラシ,衣料(繊維),紙おむつ,生理用品など
(c)生分解性を特殊機能として生かせるもの:手術用縫合糸,飲料パックの内部コーティング,接着剤など
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注目の生分解性プラスチック:ポリ乳酸タイプ |
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最近注目の樹脂は,ポリ乳酸タイプの生分解性プラスチック(PLA))です。
これは,トウモロコシやサトウキビなどを醗酵させて得た乳酸を原料とする非石油系の循環型植物性プラスチックで,今後確実に需要が増加するものと思われます。
<<最近の注目事項と課題>>
(1)携帯電話のケース(筐体)への利用が検討されています。
『NT○ドコモは,バイオマスプラスチックを素材に使った携帯電話を,早ければ06年度にも市場投入する。バイオプラは,難燃性や強度,耐衝撃性で課題があり,中でも携帯電話の筐体部分への適用は,特に難しいとされてきた。この部分に採用されるのは初めてのケースとなる。現在,2タイプのバイオプラの検証を進めている。
(@筐体にバイオプラを使用するタイプ(mova),Aケナフ繊維を用いて強度を高めたバイオプラを使ったタイプ(FOMA)。)』 <日刊工業新聞,2005,6,17> |
(2)食品容器包装向け素材として正式の認可('04,7月)
平成17年に開催された「愛・地球博(愛知万博)」では,会場内の飲食施設で食器と して利用されました。
@ワンウエイ容器:カレー皿,小皿,カップ,フォーク,スプーンなど計24種2,000万個。
Aゴミ袋は80万枚。
Bリターナブル容器:皿,カップ,ランチ専用皿など25種12万個。
『食器としては,これまで農水省で7種類が実証的に使われているだけだった。ポリ乳酸を使う食器はアルカリ洗剤に弱いなど課題が有る一方,120℃までの耐熱性がある。価格は汎用樹脂に比べ,2〜3倍高い。』 <日刊工業新聞,2005,3,23> |
(3)ポリ乳酸製のCD−ROMやフィルム,パソコン筐体への使用
家電大手S電機の子会社では,2003年12月から,PLAをディスク材料にした音楽CD,CD−ROM,ビデオCDなどの受注活動を始めています。
(トウモロコシ約85粒でディスク1枚分,トウモロコシ1本で同10枚の原料になる)
また,別の大手S社では,この材料をMDの外装フィルムに使用したり(下記写真参照),ヘッドホンステレオ(ウオークマン)の材料としても使い始めています。
その他,大手パソコンメーカーF社では05年春モデルのパソコンの筐体(FMV-BIBLO)に,NTTやF社では封筒などへの採用が進んでいます。
<課題>
耐熱性,酸素透過性,衝撃強度など。
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<写真>
S社製録音用MD(5個入り)の外装フィルム
(触った感じは,通常のフィルムと変わりません。) |
(4)『ポリ乳酸繊維の開発競争』 <読売新聞/2004,7,20>
新聞では,『大量生産に向いている合成繊維と,環境に優しい天然繊維の双方の良さを併せ持つ有力な新素材』と紹介しています。<読売新聞/2004,7,20>
<課題>
(a)耐熱性,難染色性:熱に弱く,染色加工しにくい。衣料向けはまだ少なく,自動車の座席シートや紙袋のひも,カーペットなど産業資材向けが大半を占めています。
(b)採算性:出荷価格は,ポリエステルやナイロンの2.5〜3倍とまだ高いようです。
(5)『[生分解性樹脂で車部品』 <日刊工業新聞/2004,10,6>
記事では,『Nゴム工業−マツダ−広島大学は,共同でポリ乳酸製の自動車部品(インスツルパネル,ドアトリム,天井,マットなど)を開発し,09年までに実用化を目指す。PLAは環境負荷が小さい植物由来の樹脂で,自動車部品ではトヨタ自動車が先行している。広島の自動車産業も産官学で連携し,開発競争に参入する。』と紹介しています。
<課題>
耐熱性とコスト:約50℃で熱変形してしまうので,天然素材の繊維や結晶体を混入し汎用樹脂並の100数十℃に高める。価格もプラスチックの2〜3倍と想定されるため,量産技術で引き下げる。
(6)『積層(ラミネート)フィルムの開発』<日刊工業新聞/2005,2,25>
『包装分野では延伸と無延伸のフィルムを張り合わせた積層(ラムネート)フィルムが広く採用されているが,生分解性のフィルムはこれまで無かった。 これに対し,T社は,生分解性の無延伸フィルム,2軸延伸フィルムを開発,発売している』とのこと。今後はさらに使用範囲が広がる見通し。
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生分解性プラスチックの識別:
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“生分解性プラスチック研究会(BPS)”:生分解性プラスチックに関連する樹脂メーカー,加工品メーカー,商社などが参加する組織。ここでは,生分解性プラスチックの認定マーク「グリーンプラ」(上の写真参照)の登録・発行を行うとともに,広くユーザーの認知を高める活動を行っています(2004年8月末現在の認定マーク登録製品:678品目)。
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