アオバナ
琵琶湖の周辺(28)
(平成17年7月17日撮影)

ここでは,全国でも当地の草津市だけで栽培されているアオバナを紹介しています。
ただ,最近では生産農家は激減し,2000年以降では1〜2軒しかありません。それも,伝統を守るためやむなく,という感じです。

     
(1)アオバナとアオバナ畑の様子  
当地琵琶湖のほとり(草津市)ではツユクサの変種であるアオバ(学名:「オオボウシバナ」)が栽培されていて,この時期(7月〜8月)には,花の摘み取りが行われています。この作業は朝5時頃から始まり,午前中が勝負です。午後になると,花が溶けて(縮んで)しまうのだそうです。

アオバナは,通常のツユクサより,背が高く(80〜1m),花も大きいのが特徴です。 しかし,単なる花弁の大きいツユクサというだけでなく,花弁から色素をとる目的を有する完全な栽培植物です。

摘み取った
アオバナは絞って青色の液体とし,和紙への塗布(浸透)と天日乾燥を繰り返し,アオバナ紙が作られます。(これを再び水に戻すことによって,友禅染などの下絵用染料になります。)

 
  草津市内の数カ所で,毎年場所を変えながら栽培されています。 
 
   
(アオバナ)     (通常のツユクサ)
 アオバナの花は,通常のツユクサの2〜3倍あります


(2)アオバナ(ツユクサ)の戦略! 
 
ツユクサの戦略     所さんの目がテン(読売TV,2020,8,16)から引用   
   
   (a)一番上の,花粉を出さない偽物のおしべに引き寄せられた虫に,中段〜下段の花粉をくっつける。(本当の花粉は一番下にたくさんついている。)
(b)虫が運んだ花粉を別のツユクサにつけることで自分と違う性質の種子が作られ,生き残りやすくする
(c)虫が来ない時は,一番下にあるめしべが自分で受粉する(自家受粉)。
       


(3)アオバナ紙作りの工程アオバナは,以下の工程により作られます。
以下の工程は,一軒の家単位で,女性中心に行われています。これは,これら一連の工程がどれも根気と熟練を要する作業であるためと考えられます。

(注)1
.和紙は,コウゾを原料とした高地県産のもので,縦39cm×横27cmの寸法です。
4枚24組を1束とし,これに塗る汁(液)の量は約11リットルとのことです。塗って乾かす作業が,1週間以上続きます。

(注)2.アオバナ紙に加工する理
(a) 品質を長く保てる  そのままでは腐って変質してしまいますが,和紙にしみ込ませ,乾燥させることにより品質を長期間保持できます。 
(b) 取り扱いが容易 紙なので軽いです。
(c) いつでも使える 水でもどせば,容易に絵具(染料)として使えます。
(d) 使う量の調節が容易 アオバナ紙を切り分けることにより,量の調節ができ,最後まで無駄なく使えます。
 

                  

朝早くから行われる花の摘み取り
 (中村繁男さん)
(↑黄色の雄しべが落ちています
摘み取った花は篩でふるい,黄色の雄しべが除去されます。この後,花が絞られ,その汁が和紙に塗り重ねられます。

(4)アオバナ紙の利用形態
(a) 利用されている地域 京都(京友禅),名古屋(名古屋友禅),金沢(加賀友禅)
(b) 利用の形態 『友禅染』などの下絵用染料として使われています。
友禅染めの下絵書きは,アオガミ紙から戻したアオガミ液を筆につけて書かれます。
下絵は,その後の工程で除去されねばなりませんが,アオバナの場合は簡単な水洗いによって容易に消すことができ,最適とされています。
       
       以下は,“京鹿の子絞り”の下絵に利用されている例を紹介しています。
京コトはじめ 「糸でくくり染める 京鹿の子しぼりNHK,(2023.2.24)より引用)
 

(5)安藤広重とアオバナ
   (草津は,東海道で52番めの宿場町でした)

 東海道五十三次や近江八景などの版画で有名な安藤広重は,天保元年(1830年)草津に投宿した際の様子を「広重日記」の中に記しています。
 『8月17日,晴れ,旅行には最も良き節なり。連日の疲れもなく,足もと軽く所々探勝しながら海辺(琵琶湖畔)へゆく。途上,竹輿をひろいて本街道へ出る。此八景めぐり大いに画材を得たり。いずれの日に又,一遊し尽くしたし。此地の名産,七月頃,花を摘みて紙に染め,染め物に用ゆ。夕暮れより咲き出したる故,月草又,露草ともいふ。参考のため求む。今宵は草津に投ず。

  浮世絵に描かれた友禅染の材料製作状況
(地域名:山田産の記述あり)
浮世絵に描かれたアオバナの栽培状況
     (安藤広重/画)
                 

(6)最近のアオバナの利用
アオバナ紙
作りは,江戸時代から行なわれてきたようですが,最近では化学染料の登場や着物を着る人の減少で栽培農家は減少の一途をたどり,十数軒になっています。ただ最近,アオバナに
血糖値を上げにくくする成分が見つかり(注),お茶やお菓子など,アオバナを使った加工食品が多く作られるようになっています。

(注)
元大阪薬科大学草野源次郎元教授により,アオバナに,糖質分解酵素「α-グルコシターゼ」を阻害する成分DNJ(デオキシノジリマイシン)DMDP(ジヒドロキシ・メチルジヒドロキシ・ピロリジン)の含有が確認されました。この2成分は,小腸での糖質吸収をおだやかにし,特に食後の血糖値上昇を抑制する効果が知られています。

<参考文献>
1 「アオバナと青花紙」−近江特産の植物をめぐって−
坂本寧男,落合雪野 著,サンライズ出版刊,1998,9,20発行
2 「草津あおばな会」パンフレット
                                                      
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