直線上に配置

浄照寺のおこない
(琵琶湖の周辺(63)) 
(平成23年1月9日撮影)


<音声あり>



1月9日,滋賀県甲賀市市原(戸数:約40戸)にある浄照寺の「おこない」を見てきました。

滋賀県では「
おこない」が200箇所以上で行われているといわれ,その多くは湖北と湖南で行われ,湖南では,草津市の老杉神社などの他,甲賀市に集中しているようです。
また,
湖北では神社中心で行われているのに対し,湖南ではお寺(天台宗寺院)中心に行われているようです。

そもそも,
おこないとは,お寺を中心に正月の3日から7日ごろまで行われる修正会(しゅしょうえ)とよばれる正月祈祷が起源とされます。これは,前年を反省し新年の国家安泰,五穀豊穣を願うもので,一部の寺院では,大声を上げ,棒で床を激しくたたきながら鬼を追いかける追儺(ついな)』の儀式をする所があります。

この浄照寺でも,床を棒で激しくたたくなど,一部それに類する興味ある内容の行事が「おこな」われていることが確認できました。



     この浄照寺は室町時代の創建で,薬師如来が本尊です。普段は無住ですが,頼守(たのもり)という地域の役員が,毎週1回朝晩の掃除と般若心経の読経を欠かさないそうです。加えて,このお寺の横には神仏習合美須美(みすみ)神社があり,その世話もしないといけないので,なかなか大変そうです。

 
浄照寺と美須美神社右方の全景  浄照寺本堂 美須美神社
     
   の日は,本物?の住職を迎え,14:30に女人禁制で始まりました。
参加者は,村人の大人40人位と子供数人,+我々カメラマン(うち新聞社2社+県の教育委員会の人他)で,
全員が男性でした。
         
   住職を囲むように,頼守と区長,少し離れて,年長者から年齢の順に時計回りに座っています。   

 実はこの薬師如来は,
乳薬師(ちちやくし)と呼ばれ,お乳の神様なのですが,「おこない」は,他所の通例にもれず,男性だけで行われました。それを象徴するかのように,前に飾られているものに男性のシンボルがありました(写真下中央部)!。
 これは,米原市梓河内のもののように立派ではありませんが,壁土を酒で溶かしたものに立てられていました。
 

 
         おこないが始まる前の飾り付けです。
 
     お供えは,(a)しきみ(樒)の木や松の木の他に,(b)里芋や人参を半分に切り,顔などを描いて竹に刺したもの,(c)ゆでた大豆や(d)一味トウガラシがまぶされているゴボウ,(e)2升づきの餅,(f)小竹(←「おなご竹」と言うようです)を3等分し餅を巻きつけたもの,(g)子餅,(h)御神酒・・・等々。それらは,左右1対になっています。  
乳房の形をした奉納品 同左(リアルです) 里芋や人参に顔が描いて
あります。白いのは餅。
左は大豆をゆでたもの。
右は
直立するシンボル
               
    小竹を3分割し,餅を
まきつけてあります。 
  餅を抑える4枚の板には絵馬が書かれています。    小枝にふきのとうをつけてあり,ウグイスのように見えます。     ゴボウに一味トウガラシが
まぶしてあります。
 
   
 
お寺で行われる「おこない」では,各自持ち寄った細い棒で床や板戸をたたく事例が多いようです。
事実,住職が般若心経を唱え終わるやいなや,突然,全員が
棒(=藤の枝)で床を激しくたたき始め,数分続きました
 その後,皮を剥ぎ,棒を丸めて,ある作り物の製作にとりかかりました。それは
女性のシンボル?だとのこと。
なるほど女人禁制のわけです。これは全部で5個作られました。
 
   
   
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       それが終わると,役員の方の『初献(しょこん)さしあげます』との挨拶があり,つまみとして(お供えの)大豆と一緒に御神酒がふるまわれました。そして『落ちはありませんか』に続いて『二献(にこん)さし上げます』で,今度はあの一味付きのゴボウと共に2杯目の御神酒です。
 もちろんそれらは我々カメラマンにも同じようにふるまわれ,一気に仲間意識が芽生えることになりました。 しかし,一味つきゴボウの辛かったこと!
 その後,先ほど作った女性のシンボル?を,お互いに転がし合っていました。
 
           
     「初献さし上げます」
  ま,ま,ど−ぞ     見るからに辛そうなゴボウ   作った輪の回しあいをします   
     
次に,男性のシンボルの埋まった容器を大事に持ち上げ,2個の餅にポンポンとつけていき(下の写真),それが終わると,『べっとう』といわれるものに移りました。
 これは,
酒で溶いた壁土をハンコのように,全員の頭ポンと押し付けていくものです(写真)。住職から始まって,年寄りから子供まで全員です。もちろん我々カメラマンも断る権利はなく,最初は嫌がっていた無毛の人にも施されました(^^)。
 それが終わると,占いと称して,『
早稲(わせ)か〜?』,『中稲(なかせ)か〜?』,『晩稲(おくて)か〜?』などと言いながら,飛び上がって,柱の上の方にポンとハンコを押します。
     
 
           
     頼守がシンボルを手に持って・・・   鏡餅にポンポン   毛のない人には
押しつけ易い(^^)/~
 
   引張り合いをします  
   
 その後は,長老が,今年の役員を描いた紙を読み上げ,『○○さん,
頼守(たのもり)を引き受けて頂けますか?』『受けさせて頂きます』で拍手。
 あと,2個の餅の引き取りについても同様なやりとりがありました。しかし,その餅を渡すのも,そのままスンナリ渡すことはせず,しきびごと餅を風呂敷でつつみ持ち帰ろうとするのを,他の人がわざと邪魔をするように引っ張る動作をします(写真)。


 このようにして,ひととおりの儀式が終了しましたが,女人禁制ということで最初は驚きましたが,楽しいものでした。また,区長さんはじめ,皆様にはお世話になりました。ありがとうございました。
  
 

<参考>ここで作られる藤の枝の輪は「女性のシンボル」などと言われてましたが,昔からいわゆる陰陽道として伝わる「まじない」の部品の名残ではないかと思いました。というのは,特に湖東地区では「勧請縄」という注連縄の一種では,その中央部に棒で作った星形や輪状の作り物を付け,地域を悪霊等から守るまじないを伝える事例が多いことによります。また,近江でなくとも,その種の作り物をする地域があります。
なお,浄照寺は今年建て替えられることが決まっており,行事は続くものの,この歴史ある本堂でのおこないは,今年が最後になるとのことです。

<参考文献>
1 「滋賀の百祭」:大塚虹水著,京都新聞社発行,1990,10,27 
      「陰陽の世界」:「別冊太陽」西川照子・構成,平凡社発行,2003,2,24 
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